『月に寄りそう乙女の作法』 感想

月に寄りそう乙女の作法
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Navelのブランド設立10周年記念作品ということで、とても久しぶりになる鈴平ひろ・西又葵のダブル原画なのだけれど、これが今までの印象からガラッと変わっていて。中間色のグラデーションを多用したイマっぽい感じの塗りなんだけど、作品のノーブルな雰囲気にマッチしているし、なにより美麗で目を惹く。CGを見ているだけで綺麗だなーと感心するのは久し振りだ。ルナ様のその全身から醸し出されるオーラは、あの銀髪赤髪の塗りの綺麗さに因るものが少なくないのではなかろうか。鈴平の原画も以前より華やかになっているなあと感じたけど、久し振りに競うことになった相方に引っ張られたのか塗りに引っ張られたのか、野暮ったさに定評のある西又の絵柄までもが洗練されて美麗に見えてきてしまう不思議。いやほんとにね。でも西又絵が悪いという訳でもなく、鈴平絵だけだと線が細くなりすぎそうなところを防いで厚み(デブ的な意味じゃなく)を持たせるいいバランスになっていると感じた。

音楽も全体的に自己主張が強い感じで耳を奪われるので、おおさすがにNavelは音楽強いなあと思っていたら、クレジットでアッチョリケではなくて外注のArte Refactが書いていたことを知ってとても驚いた。だけどその絢爛な作風は、高いクオリティもさることながら、芸術というお題目をあげた今回の作品の雰囲気に寄り添った作りになっていて好感が持てた。思わずサントラ買ってしまったよちくしょう本当にいい出来だなおい。
ボーカル曲はさすがのNavelクオリティで、特にオープニングが良かった。落ち着いたミディアムテンポの楽曲なんだけど、Bメロまではギターとベース・ドラムのシンプルな構成で引っ張っておいてからサビで入るストリングスで一気に盛り上げるという構成が、OPムービーで鳥が羽ばたくシーンと重なることでの開放感に繋がっていて素晴らしく泣ける。(後述するけど)物語の内容にも合っているしね。あとエンディングは明るすぎてちょっと違うんじゃないかな?と思ったりもしたけれど、すべてプレイし終わった後に聞くと頬がにやけてしまうんだからこれで正解なんだろうな。


これはNavelの特徴と言っていいと思うんだけど、全体的にキャラが立っていて、飽きさせない。特にサブ周りにピーキーなキャラを配置して賑やかすというのはSHUFFLE!というよりは俺つばで目立ってたけど、今回もそんな軽妙なやりとりは変わらず。この辺りは、先述した鈴平・西又(あとサブ原画の羽純りお)の複数原画による多様性の厚みが功を奏していたと思う。鈴平キャラだけだと線が細くてコメディを回すのはちょっとキツいかなと思う箇所がままあったし。そんなサブキャラも日常シーンの賑やかし要員としてだけではなくちゃんと物語本筋で教え導く役割を果たしているのは上手だなーと。個人的に気に入ったのはサーシャさんかな。二の線もコメディも張れるいろいろと美味しいポジションよね。

メインヒロインの中でも、ルナ様のキャラ造形は近年希にみるヒットと言えるだろう。誇り高い立ち居振る舞い、思わず自然に傅いてしまうような気品・言動というのはなかなか表現しにくいはずなのに、プレイしていると、朝日がわずか2ヶ月くらいで従者としての心根になりきってしまった理由が、八千代やメイドたちが尊敬の念を持って接する理由が、散々な目に遭わされながらもユーシェが付き合い続ける理由が、ちゃんと分かる。朝日ならずとも「ありがとうございます。お優しいルナ様」と跪きたくなってしまう。ルナ様の場合は銀髪赤目というキャラデザインの時点で大勝利という気持ちもなくはないが、そのデザインに負けないだけの内実を入れ込んだライター勢はほんと偉い。卯衣さんの演技は棒読みに定評があるんだけど、今回はとても良いンダナ。いやダウナー系って演技の違いを付けるの難しいはずなんだけどきっちり演じ分けてるし本当に良かったですよ。朝日に対しての感情を持て余して戸惑っているあたりの演技は出色。エロシーンでの言葉責めも最高でした。


しかし何より、主人公である大蔵遊星/小倉朝日のキャラ造形が素晴らしいんだ。女装ものの定番として、主人公が一番可愛くて「こんなに可愛い子が女の子のはずがない」を地で行くような、もう男でもいいやというレベルの可愛さ。でもそれだけではなくて、何より強い意志の強さ……というよりも欲求がある。女装して学園に潜入するという事実を許容しているわけではないけれど、そんな無理筋を通してでも、胸に芽生えてしまった「人生を笑って過ごしたい」という希望、「憧れたジャンと同じ服飾の世界に進みたい」という夢に殉じたいと強く願う遊星。こと女装潜入というシチュエーションは、そのキッカケが受動的な(主人公にとっては本意ではない)外的要因によるものが殆どなんだけど、本作は主人公である遊星/朝日の内からわき上がる欲求によるものだということが物語のポイント。
そうなるに至った切欠というか、大蔵遊星という人格がどのようにして成り立っていったかという説明をプロローグの走馬燈の辺りで一気に見せてしまうというのはなかなかのバクチな手法だけれど、今回についてはアリかなと。走馬燈で描かれた、純粋過ぎてどこか虚ろな現実味に欠ける遊星少年がその内面に潜んでいるというバックボーンを理解しているからこそ、本編での朝日の天使のような無私の立ち振る舞いに作り物っぽさを感じにくいというか、ああこの子は本心からそう思ってるんだろうなあと納得できるし、ある種の痛ましさを覚えるようになっている。

つまるところ、本作品はなにより遊星/朝日の物語なのだろう。純粋ではあるもののどこか歪な空虚さを抱えた遊星/朝日が、世界を見て、人を知り、己の進むべき道を見出すことによってそのうつろな洞を愛で埋めていく。出来が良かったルナ様・ユーシェのルートで顕著だけれど、彼ら彼女らに襲いかかる困難を打破するためには朝日の努力によってブレイクスルーを起こすことが必要になるのだけれど、そこには物語の要請で無理矢理捩じ込んだような印象はなく、とにかく頑張ってくれ、是非とも朝日を救ってあげてくれという見守るような気持ちが強くなってしまうのだ。
だからこそ、俺が一番グッと来たシーンは、ルナ様ルートでの衣遠兄様と和解するシーンだったりするわけですよ。捨てられ戸惑う子供のような怯えた眼差しをしながらそれでも何かを期待するかのような遊星の姿と、そこでなにかを振り切って年長者としての姿勢をはじめて見せる衣遠兄様の姿というのは、プロローグの走馬燈から地続きとしての大蔵遊星の物語を締めるものとしてはピッタリだった。りそなは割を食った感じがあるし衣遠兄様も含めて大蔵一族の物語をもっと見たいなあと思うので、続編の乙女理論ではその辺を深掘りしてくれることに強く期待したい。


まあ、ちょろっと難点といえば、場面転換のアイキャッチで出てくる「ドーン!」っていう効果音がデカすぎることかな。雰囲気重視のタイトルなんだから、そこはもうちょっと考えて欲しかったというか。俺つばみたいにコメディ主体の作品ならばそれほどには気にならなかったと思うが。でも、その演出があるから後をひかないというか、ザクザクとぶった切るテンポの良さにも繋がっているように見えるから悩ましいところではある。
それから、まあ、ルート毎の出来の格差かな。つーか、露骨に鈴平担当と西又担当でガクンとレベル変わりませんかおい。瑞穂ルートは悪くないんだけど、ルナ/ユーシェに比べると正直落ちる。湊もキャラとしてはとても可愛いし好感が持てるし不憫可愛いんだけど、自ルートの内容は、おいそれ服飾関係ないじゃねえかよなんで新婚さんみたいに同棲してるんだよというツッコミが先に立ってしまってそのなんというか。服飾の素人だからこそというアプローチだったり、昔からゆうちょを知ってるからこそというアプローチでも良かったんじゃないのかなーって。


魅力的なキャラが織りなすコメディ部分とシリアス部分のバランス取りが絶妙で物語としても(ルート毎のバラツキはあるとはいえ)おおむね上質。CG音楽を含めたパッケージの完成度も高く、ブランド設立10周年記念という名前に負けない、相応しいものに仕上がっていたと思う。
だが、そういう客観評価を飛び越えたところで、俺の心のひだの柔らかいところを突かれてしまった。傷付いて独りで震えていたふたつの彷徨える魂が、その欠けた魂の片割れを見い出して、比翼の鳥のように大空に羽ばたいていく。そんな心象の有り様が、変わりゆく光景がとても魅力的で、とても素敵だった。今回の路線は絶対に支持したいので、今度出る続編の『乙女理論とその周辺』には全力出しますわ。
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