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『この大空に、翼をひろげて』感想

この大空に、翼をひろげて
この大空に、翼をひろげて 初回限定版(PULLTOP) (18禁) [ゲーム] - Getchu.com
この大空に、翼をひろげて - Wikipedia
この大空に、翼をひろげてとは (コノオオゾラニツバサヲヒロゲテとは) [単語記事] - ニコニコ大百科


看板として長らくブランドを支えていた創立メンバーがSEVEN WONDERを設立して離脱、仕切り直しになった新生プルトップの第一弾。メインの題材がビジュアル的にそれほど映えるとは言えない「グライダー制作」だし、キャラ立てもそれほど目立つ何かがあるわけでない…というかぶっちゃけ地味だし、更に言えばキャラデザ(原画)も初見では目を惹くものではないしということで、要素だけ抜き出してみれば、とても受けるような内容には思えませんでした。予約したのも「今までプルトップ買い続けてたし、とりあえず買ってみようか。五行なずな出るし」くらいの適当な気持ちでした正直。

ところが、豪快に積んだままだったのを巷間の良い評判に釣られて重い腰を上げてプレイしてみたらこれが面白い。グイグイと物語に引き込まれてしまう。

まず素晴らしいのは、メインライターである紺野アスタの十八番である青春群像劇の描写。青春真っ盛りな少年少女たちの、キラキラと光り輝く高揚感と、力及ばず項垂れる無力感。抜けるような青空の爽やかな清涼感と夕暮れ時を帰る道ばたの寂寞感。個人的にとても好きだった『夏ノ雨』でもそうだったけれど、一回しかない青春を謳歌している彼ら彼女にフォーカスを当てた物語を書かせると、紺野氏は本当に上手ですわ。ありふれた、珍しい題材ではないというのは事実だけど、そんな手垢に塗れた題材をここまでのものに昇華させていることはなかなか出来ることじゃない。

しかもその物語を成立させるための方法が「ギミックや仕掛けに頼らず、安逸な方向に逃げず、尺を取って描写を重ねることで物語に厚みを持たせていく」という古典的かつスタンダードな手法ではあることは特筆すべきだろう。昨今のドッグイヤーを地で行くエロゲ(ひいてはオタク業界の)風潮からすれば、面白いのは当然で、それをブーストさせる仕掛け(作品上のものでも広報的なものでも良い)が無ければヒットには繋がらないものだけど、そういうブーストなしに物語の力だけを恃みとするストロングスタイルで真っ正面から特攻して、しかもセールス的にも評価的にも成功しているというのは凄いし、偉い。
これは後付けになってしまうけれど、体験版が公開された段階でかなり話題になったことも、体験版収録の分量だけでもその物語のボリュームをじゅうぶんに実感できるだけのものだったからこそだろう。いや、やっぱり地味ではあるんですが。

使い方に感心したのが画面演出全般。背景画像に独立して動く場所(風車とか)があったりカットインやSDアニメーションといった最近重視される要素は大体取り揃えているんだけれど、その使い方がとてもスマート。演出に力を入れた作品は、ともすれば「俺様の超絶凝りまくったサイコーな演出を観ろ!」的な意識を感じることがままあるのだが(偏見)今作にはそのような肥大化した我は感じにくい。あくまで作品に従属するものという立ち居振る舞いにはある種の上品さと清潔さを感じた。(清潔さ、というのはこの作品のキーワードのひとつだと思う)


まあ、無条件で賞賛する訳ではなくって、難点もちらほら。たとえば物語を牽引するところでご都合主義っぽい側面が何度も顔を出すことで、それこそ「幻と言われていたモーニンググローリーがなんで毎回きっちり発生するんだよ(笑)」とかね。それまでのストーリーラインの中で助走をつけての上でのことなのでそれほどごり押し感はないんだが、これがもっとボリュームが短い作品だったらフルボッコにされててもおかしくない。もともと現実世界においても発生のメカニズムが細かく解き明かされている訳じゃ無いんだから、なんかそれっぽい理屈を付けるだけでも(風ヶ浦市のシチュエーションだけがかなり特殊だとかなんだとか)受ける印象はだいぶ違ったのではなかろうか。

それから、ルート毎の出来のバラツキも気になった。紺野アスタが手掛けたメインルートはともかく、双子とあげはのルートはちょっとレベルが落ちる。作品全体として見た時のバランスを取るために、いわゆる失敗ルートとして設定されていることは兎も角としても、主人公のキャラ立てもブレ気味だし、(特にあげはルートで顕著だったが)内面描写とか地の文の割合が減って会話劇主体になるところには違和感が強かった。普通のエロゲだったらそれほど気にならなかったところだろうが、それまでの長い共通部分での丁寧な描写に感心していたところに、テイストが突然変わってしまっては、どうしてもね。
演出絡みでは、BGM切り替えのタイミングやシーン切り替えが唐突すぎて、ブツ切り感を感じることが多々あったのはとても残念。ものすごく残念。せっかく雰囲気を盛り上げるいい演出をしているというのに台無しだよ。演出自体や歌曲の出来そのものは良いだけに、これはかなり残念だったし、次回作があるなら是非改善してほしいところだ。


対して想定外の収穫としては、当初思っていたよりもエロが良かったということ。尺もそこそこ長めで描写も適度にねちっこいし、シチュエーションも硬軟取り混ぜてバリエーションがある(アナルとマジイキがあったのは意外)。しかし何より、ヒロインがエッチに対してアグレッシブで積極的なのが気に入った。「ビッチ」「淫乱」ではないしかといって「イチャラブ」ともまた違って、快楽を得ることに対して正直でいるところに若い盛りの少年少女っぽい印象があるとでも言うか。きっちりギシアンしているのに、それほど退廃的な香りにはならずどこか爽やかさがあるのよね。
予約特典の「スイートラブパッチ」の内容が公開された時は、「エロの回数が増えることは嬉しいけどプルトップレベルじゃそんなに嬉しくないなあ」などと不遜なことを考えていたというのに、コンプした後はきっちり予約で購入していた過去の自分に五体投地で感謝の心を捧げるレベルでございます。パッチで追加されるシチュエーションがコスプレエッチというのも、本編プレイ後のご褒美感の演出としては悪くないんじゃないかと。個人的には双子との3Pと先輩の野外プレイがツボでございましたよ。これは今までのプルトップの流れとは言いにくいし、企画・ディレクターのYowつながりで旧・千世の遺伝子が流れているのかなあ、などと思ったりもした。あそこも意外と(失礼)エロが濃かったし。


プルトップといえば創立メンバーである椎原・たけやコンビか、ゆのはな・かにしの等の丸谷・藤原の外注ラインがメインのブランドであるという印象が強くあったが、本作はそれらの流れを断ち切って、これからの流れが見えてくるいい作品に仕上がったと思う。自分を含めた今までのプルトップを好んでいたユーザーがどう感じるか、受け入れてくれるのかというのは今後の課題になっていくのだろうけれど、すくなくともその入り口である1発目としては文句の付けようがないものになっているんじゃないだろうか。次にも期待したい。……まずはFDを開けないとな。
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