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『キッキングホース★ラプソディ』 コンプリート

キッキングホース★ラプソディ|ALcot ハニカム

保住圭&ミヤスリサという、かつてSiriusでいちゃラブ系の俊英として鳴らしたコンビが久し振りにタッグを組んだということで話題になっていた今作。個人的には、近作があまり良くなかった……というかぶっちゃけ保住圭のワークスで大好きなのは初期の『まいにち好きして』と『魔法はあめいろ?』まで。『こいびとどうしですることぜんぶ』や『ましろ色シンフォニー』やなんかはもう全然ダメダメという評価だったので、ミヤスリサガード不能ということで予約はしたものの期待よりも不安の方が先に立っていた…わけですが。
いざ蓋を開けてみたら、手が触れるだけでも大事件に思ってしまうような恋愛の甘くスイートなドキドキ感に思う存分身悶えさせながらも、そこに“甘いだけじゃダメ”な恋愛のビターなフレーバーを振りまくさじ加減の巧みさがとても良くて拍手喝采スタンディングオベーション。自分が保住圭のシナリオに求めていたのはこれなんだよ!

もともと恋愛関係になり始めの時のこそばゆくももどかしいドキドキ感を描かせれば屈指ではあるが、比較的普通の…属性ブーストが付与されていないキャラ造形だからこそ(このあたりはクラクラとかましろ色で不満だったところ)余計にその恋愛の初々しさがかけがえなく思えてくる。初エッチをお互いの合意の上で計画的に実行しようとしたり、二人連れ添って避妊具を買おうとするところを描写する下りなんかは実に保住ライク。
徹頭徹尾“敵がいない”ダダ甘な展開に終始するのではなく、「恋愛とはいいものだ」という大前提に立った上で、ムダにシリアスにせずに(ここ重要)恋愛することの難しさ・困難さを真っ正面から描いているところは好感が持てるし、志の高さが感じられる。そこで効いてくるのがたいちょーの存在。恋愛を当事者ではない立ち位置から眺める彼女の視点が存在するのは深刻になりきらないためのストッパーとして機能しているし、「初々しい恋愛」からはリアルで遠く離れてしまった身が作品世界に没入するためのチャネルにもなっていると思う。

エロも良い。保住はエロに関しては変化球は投げずにわりとオーソドックスなプレイに終始している印象があったのだが、今回は妙にフェティシズムに溢れてねちっこいエロシーンが目立つ。処女に腋舐めプレイとかレベル高すぎです。まあ、そういうフェティシズムを抜きにしても、3キャラともエロシーンにおいてもその個性が発揮された反応をしてくれるのでとても可愛い。ミヤスリサのエロ絵(とくにおっぱい)の破壊力は言うに及ばず、テキストも他タイトルよりも濃いめの味付けで回想枠のわりに実用性は高いです。
余談ではあるが、エロシーンに関連する日常テキストの台詞の節回しの端々が、どことなく引退したおるごぅるっぽいなあと感じることが何度もあった。エロシーンで童貞くん童貞くん連呼するところなんかは絶対おるごぅるの生き霊が宿ってると思うぜ。ぶっちゃけ名前を出さずに参加していたと言われても素で信じるレベル。


全体的なリソースに劣るミドルプライスで、フルプライスのメソッドをそのままダウンサイジングして枠に入れ込むだけでは“薄い”ものにしかならないはずだが、そこで不足感を感じにくくさせる心配りが随所に張り巡らされていることに感心する。入り組んだ内容を描けないから全体的にシンプルに作品の方向性を絞り込んだものにして、攻略攻略ヒロインが少ないから関係性の密度を上げて対応している。3ルートをコンプリートすることでエピローグが流れてタイトルバックが変化する演出も、それそのものの余韻を感じさせる演出の素敵さもさることながら、実際のボリューム以上の充足感・満腹感と「終わらせた」という達成感をプレイヤーに与えてくれている。価格の安さから色目を付けて評価していないかと言われれば否定はしないが、その「安いから価格なりかと思っていたら予想していたよりも良かった」的な、初期段階での低い評価から反転して高く評価するような人間心理も計算に入れているような気すらしてくる。
これでALcotのミドルプライスラインも3作目になるが、リソースが足りないミドルプライスという限定条件下でいかに勝率を高めていくかという点について、良い意味で戦略的に作品を作り出しているなあという印象が強い(先行する体験版の終了部分に“引き”を作って食い付かせるところとかも)。企画内容が変わりメインの外注スタッフが変わってもこのバランス感覚は保たれたままというのは、ディレクションするAlcotサイドのバランス感覚がしっかりしているからだろう。プロデューサー・ディレクターとしてクレジットされている宮蔵氏の過去のシナリオ仕事には今まであまりいい印象を抱いていなかったけれど、ディレクターとしては高く評価すべきなのかもしれない。次にどんなスタッフを引っ張ってくるのかも楽しみだ。


“恋愛は難しい”という命題に対して直球ストレートに取り組んでいるところといい、出来の良い正統派の少女漫画を読んでニヤニヤゴロゴロする感覚というのが一番近い。そしてイラストと書き手の名前をより前面に押し出すラノベ的な手法ということでは「ハニカム文庫」というパッケージデザインが象徴的だなあという気もするな。次回作にも期待。
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