黄昏のシンセミア御奈神村報Getchu.com:黄昏のシンセミア 初回限定版(あっぷりけ) (18禁)【Game-Style】『黄昏のシンセミア』特集作り手側の良くも悪くも真面目な姿勢というものが作風を定義づけているという点では『見上げた空におちていく』『コンチェルトノート』と同様。だが前2作と比べると文章運びのテンポの良さや語彙のチョイスが格段に洗練されており、物語の運び方に安定感がある。それでも多少回りくどかったり、説明的になるところはまだ残っているのだけれど、概ね許容範囲内だろう。
突如現れた怪物の正体は何か?伝説となった過去の出来事の真実は何だったのか?などといったフックに対して、理が通る民俗学的なアプローチで切り込んでいくのだが、日常場面での“静”と緊迫した場面の“動”の切り替えが上手く話運びの手際も良いし、過程の描写や事に至るまでの理由付けがしっかりしているので、プレイしていて物足りなさは感じなかった。体験版でプレイできる部分の内容から、もっとおどろおどろとした伝奇的な“暗闇”の要素を前面に押し出した作風ではないかと想像していたのだが、そのあたりは好みの範疇内だろう。
作中に張られた伏線は本編のなかでキチンと回収して、伏線というほどではないが疑問に感じるような細かい設定については初回特典の設定資料集で説明する……というバランスの取り方も過去作と同様。「副読本を読まないと話の流れが全然分からない」ものも「話の流れを阻害してでも、作中で一から十まで設定を開陳する」ものも論外だと思っているので、このバランス感覚は他でも真似して欲しいと思う。(最近でもないが『Dies irae ~Acta est Fabula~』の初回特典小冊子がそれに近かったかもしれない)
キャラクターはもう全員可愛い。まず、メインヒロインであるさくやの秀逸なキャラ立て。無邪気にひっついてくるわけでも嫌悪し毛嫌いするわけでもない、相棒的なノリではあるんだけれど厳然とした“兄妹”でもある…という、そこらにありそうなのになかなか見かけない絶妙なライン。アル(みあそら)にしても莉都(コンチェ)にしてもそうだが、こういう“ありそうでなかった”キャラを書かせると桐月氏は本当に上手い。ただ、自分としては前作の進矢と莉都の相棒的な関係性の描写のほうが好みではあった。
実妹との近親相姦というタブーの描写・展開については、落し所は予想の範囲内ではあったけれど、恋慕の情が高まりすぎてその欲望に流されるまま……みたいな展開に持っていかず、お互いに覚悟完了した上で関係を持たせていたのは感心した。最初のHシーンで部屋に入っていった時のさくやの態度には一見の価値がある。全体的に地に足が付いた作風なので、社会通念的なタブーや“結ばれた後の処世”について思いを巡らせることなく「好きな物は好きだからしょうがない」的なノリで処理をしなかったことは作り手の意識の高さだろう。
それ以外のヒロインも可愛くて……というかキャラ単体で見ると、さくや以外の(サブも含む)ヒロインの方が圧倒的に好みです。とくに、気の置けない(だが近年はちょっと疎遠になっていた)陽気で快活で巨乳で巫女さんな幼馴染みであるいろは@青山ゆかりが超ツボ。それはお前がゆかり教育の受講者だからゲタ履かせてるんじゃねーかと言われれば否定はしないけれど、逆に「青山ゆかりが魅力を十二分に引き出せるくらいのポテンシャルを秘めていた」とも言える。がっかり美人な銀子さんも、やっぱり「ありそうであまり見かけない」ところを突いてきていて良かった。
『コンチェルトノート』は莉都・タマとそれ以外のキャラの格差が酷く攻略不可のサブキャラも多かったものだがそれも改善されており、サブキャラにもあまり長くはないものの個別ルートが用意されている(みあそらはそもそもキャラ数が少なかった)。ボリューム感には欠けるしエッチも1回限りとちょっと物足りなさは残るのだが、サブだけあってストーリーが本筋に関わっていけないということもあるし、全体のバランスを考えるとそれで良かったのだと思う。
そしてなにより、主人公である孝介のキャラ造形が良い。肉体的にも精神的にも、飛び抜けた力量や特殊能力がある訳ではない。だが、無茶無謀は(基本的に)せず冷静に場の状況が判断でき、身体を張ることも厭わず、一度決断したことは揺らがずに最後まで自らの意志を貫き通す……そんな自然な立居振舞いのカッコ良さは、周囲がマンセーマンセーと不必要に持ち上げる俺つえー系(もしくはハーレム系)や“鈍感”という免罪符の元に茶番劇を繰り返すようなウジウジ系とは一線を画している。ナチュラルにセクハラ発言を繰り出す変態紳士でもあるのだが、そんな側面すらチャームポイントに見えてくるから不思議だ。
ただ、そんなエリート変態紳士である孝介さんが活躍するはずのエロは、実用性という点ではあまりよろしく無かった。メインヒロイン3回サブヒロイン1回のエロを女キャラ全員にきっちり割り振っているし、○学生と3Pやっちまったりちょい変態チックなシチュエーションでイタしてたりといろいろ頑張ってるのは確かなんですが。このタイトルは別に抜き目的で買った訳じゃないからさほど問題視はしないのだけれど、本編での孝介さんのナチュラルな変態っぷりを思うと少し物足りなさが残る。
オダワラハコネの原画もみあそら・コンチェの頃から比べると格段にレベルアップしており、特に表情やバストアップのCGでの感情表現の表現力アップがものすごい。いろはさんの口元と腋とか、もうその可愛さだけでご飯が食べられそうなレベル。SDイベントCGも作品の雰囲気から浮き上がらないレベルの使われ方をしており好印象。身体バランスや構図、肉感的な描写といった基本的な部分でまだまだ不満もあるのだけれど、まあそれは今後の更なるレベルアップに期待ということで。
鷹石しのぶが手掛ける音楽は一作目から一貫して高水準だが、今回もその期待に背かないすばらしい出来。壮大なスケール感を感じさせる鷹石氏の楽曲は、今作のような伝奇要素を含んだ物語の雰囲気にはとてもマッチしている(近日発売予定のサントラは速攻で予約した。今回はリリース早くてよかった!)。だが、みあそらの「蒼穹」「The Blue」やコンチェルトノートのメインテーマのような、これ一発で全部持っていくぜ!みたいな必殺の一曲は無かったかなとも思う。
そしてなにより、
システムが最強クラスに使いやすい。細かな不満点が潰されて完成度が更に上昇したフローチャートはコンチェルトノートから変わらずの使いやすさで、セーブ&ロードでの分岐回収が実質的に不要となっている。フローチャート上の小窓でのシーン再生が実装されているのを体験版で確認したときにはさすがに仰天した。さらに、『見上げた空におちていく』で実装されていたフラグメントシステムが復活。本編の別視点や後日談、IFエピソードなどが独立ブロックとして閲覧が可能になっているのだが、本編に絡めにくいエロや本編開始前のエピソードの回収を、本編終了後にポンと出してしまうのではなくシステムに組み込じゃうというのはなかなか上手いやり方だなあと手を打った。
作品単独での評価というよりはブランドの過去作との比較に終始してしまった感があるが、前二作で挙げられていた不満点を解消しつつ高く評価された所は順当にビルドアップさせた、ゲームの各要素を高いレベルで纏め上げた隙がなく手堅いつくりのゲームに仕上がっていると思う。ストーリー志向のゲームがやりたいならば、体験版をプレイして肌に合うようであれば、あっぷりけブランドの過去作品が好きだったのであれば……手を出してみる価値は充分にあるだろう。
あかべぇ系列は当たり外れの振り幅が極端に大きい印象があるけれど、あっぷりけブランドで、シナリオ:
桐月, 原画:
オダワラハコネ, 音楽:
鷹石しのぶ, プログラム:
ワムソフト, ディレクター:
憲yukiというスタッフの布陣が変わらなければ、次回作でも本作と同等以上の素晴らしいものを見せてくれるに違いない。
ただ、総合評価はあっぷりけ史上最高であることは間違いないものの、前二作のような尖った魅力というのはちょっと薄れてしまっているので、そのあたりは好みが別れるところかもしれない。既存3作品のなかで一番“良く出来ている”と思うのはシンセミアで、一番“好き”なのはコンチェルトノート…というのが、メインヒロイン(アル/莉都/さくや)へのお気に入りの差も考慮した上での個人的な評価。